季節の松本 第11回「アニメソング(前編)」

インタビュー・構成:水島己


 話題のアニメ『マクロスFRONTIER』の挿入歌、ランカ・リー=中島愛の「星間飛行」(作詞:松本隆、作曲・編曲:菅野よう子)が6月25日に発売され、現在ヒット中です! 同じタイミングで、『マクロスFRONTIER』劇中でもこの歌が流れ、全国のランカ・リー(『マクロスFRONTIER』のヒロイン)ファンを魅了しました!
 そこで、風待茶房の魔☆こと松本隆へのインタビューシリーズ「季節の松本」第11回は、「アニメソング」をテーマに、前編・後編の2部構成でお送りいたします。前編ではシングル「星間飛行」と「マクロス」シリーズのお話を、後編ではこれまでに魔☆が手がけた『風の谷のナウシカ』『スプーンおばさん』『クレヨンしんちゃん』などのアニメソングのお話をたっぷりお届けします。まずは前編からごらんください!


飯島真理さんがリン・ミンメイだなんて知らなかった
銀河一のアイドルのデビュー曲
バジュラにすら愛される究極のラブソング
時代が求める'80年代の色


飯島真理さんがリン・ミンメイだなんて知らなかった

――

松本さん、「マクロス」は当時から見ていたんですか?

松本

僕は飯島真理さんに『スプーンおばさん』の曲(「夢色のスプーン」「リンゴの森の子猫たち」(1983年))や、「1グラムの幸福」(1984年)と「セシールの雨傘」(1985年)って歌を書いたんだけど、どれもすごく良い曲でね。ただその頃、僕は本当に忙しくてさ、毎日次から次へと詞ばっかり書いてる生活で。彼女が「マクロス」をやってたなんて知らなかったんだよね。リン・ミンメイ(※1)なんて全然知らなかった。

――

そうなんですか。

松本

その後、'88年くらいかな? 劇場版(『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』(1984年))のビデオをたまたま借りて観たら、面白かったんだ。もうブームは終った後だよね。歌姫が出てきて、歌がすごくパワーを持ってるって設定だった。それでクレジットを見たら、リン・ミンメイを飯島真理がやってるわけ。なんだと思って(笑)。

――

本当に知らなかったんですね。

松本

たぶん当時、飯島さんとの話に出てたとは思うんだけどさ、右から左に抜けて忘れてたんだろうね。とにかくその後、初代のテレビ版を見たんだけど、割とリアルにアイドルの裏側っていうかな、そういうものを描いてるんだ。

――

確かに、当時としては画期的なキャラクター像ですよね。ヒロインで人気アイドルのリン・ミンメイの性格がその……良くないというか(笑)、すごく人間的なキャラクターとして描かれていました。

松本

でも、僕はアイドルをいっぱいつくってきたわけだし、裏側も知っているから……リン・ミンメイでも全然いい人に見えるね(笑)。

――

問題発言ですね〜。'80年代、アイドルの全盛の歌謡曲の世界で、数多くのヒット曲を書かれた松本さんから見て、「マクロス」で描かれたアイドル像っていかがでしたか?

松本

もちろんあれは飯島さんがモデルってわけじゃなくて、当時のアイドル像を脚色しているわけだけど、ある意味ですごくリアルだと思う。半端じゃないよ。僕が脚本書いてもあそこまでにはならないと思う(笑)。

――

それにしても『マクロスFRONTIER』のヒロイン、ランカ・リーはものすごい勢いでスターになりましたよね。

松本

ネットの掲示板を見てたら、「あんなに急に売れるのは不自然だ」みたいな書き込みがあったんだけど、アイドルってほんとに一夜でスターになるんだよ。アイドルとはそういうもので、それはある種の魔法みたいなものなんだ。作り手にとっては快感だよね。ランカは営業なんかしてて、むしろ苦節したほうだと思うよ。

――

そこの描写もリアルなんですね。

松本

でさ、「マクロス」シリーズの「歌が一番強い」っていう設定は、ある意味、僕の理想なんだよね。それを聞いたときに、あの曲(「愛・おぼえていますか」)はなんで僕に頼まなかったんだ、っていう思いがすごく強かった(笑)。

――

「愛・おぼえていますか」の作詞は安井かずみさんですね。

松本

そう。加藤・安井夫妻だね。でもまぁ、同じ年に「風の谷のナウシカ」をやってるわけだから、2つとも僕がやったら欲張り過ぎかなって思う。そういう遠い記憶があって、「マクロス」っていうのはやりたくてもできなかった、でも僕の好きなもののひとつになってたんだ。

※1 リン・ミンメイ
アニメ『超時空要塞マクロス』(1982〜83年)のヒロイン。飯島真理は声優としてリン・ミンメイ役と劇中歌を担当。翌年には、劇場版『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』(1984年)の主題歌、「愛・おぼえていますか」(作詞:安井かずみ、作曲:加藤和彦、編曲:清水信之)もヒットした。



銀河一のアイドルのデビュー曲

松本

去年の暮れに、(『マクロスFRONTIER』で音楽を担当する)菅野よう子さんから連絡が来たんだ。菅野さんといえば、3年前に『大航海時代 Online』ってゲームを風待茶房のスタッフで遊んでたんだけど、その音楽を彼女がやってたのを覚えてる。海ばっかりのゲームだったから、延々と音楽だけが流れていて擦り込まれちゃって……お世話になってたんだよね(笑)。

――

当時、『大航海時代』はけっこうハマってましたね。

松本

うん。菅野さんって才能あるなぁと思って。あとは、『カウボーイビバップ』(1998年)ってアニメの音楽もやっていて、それはジャズなんだよね。そういう僕の好きなものをいくつか作っていて、この菅野さんって人とはいつか仕事することがあるかな、と思ってたんだ。

――

すでに予感はあったんですね。

松本

だから、「マクロス」をやりたくてもやれなかったというのと、「歌が人類を救う」というテーマ、それから「菅野さん才能ある」っていう、これだけ重なると、この仕事はやりたいと思うんだ。ただ締め切りが……、去年、千住くんとやった「隅田川」のオペラと重なっちゃって。それが終ってから締め切りまで3日くらいしか無かったんだ。それで、うまく頭を切り替えられるかな?って心配だったんだけど、どうしてもやりたかったから。

――

ただタイミングがあまり良くなかった。

松本

昔はものすごく頭の切り替えが早かったんだ。テレビのリモコンでチャンネル変えるみたいにね。映画(『微熱少年』)のロケハンや撮影と、詞も書きながら、レコーディングにも立ち会って……みたいなことでも切り替えができた。全然違うメディアでも同時進行ができるくらい切り替えが早かった。でも今回、いざやってみたら、かたや室町時代の能とクラシックっていう「隅田川」の世界と、かたや未来の宇宙の銀河の果ての物語っていうさ。

――

しかも学園ものっていう。

松本

もっともかけ離れた世界だよね(笑)。このギャップの中での切り替えはさすがに大変だったね。「隅田川」には本当にのめり込んでいたし、そこから戻って来るだけじゃなくて、銀河まで飛ばないといけない。フォールド(※2)しなきゃだめだったんだ、「マクロス」的に言うとね。

――

ちなみに、菅野さんからはどういう要望があったんですか?

松本

彼女が言ってたことで一番気に入ったのはさ、「銀河一のアイドルのデビュー曲を作ってください」ってこと(笑)。日本1位のアイドルは書いたし、スリーディグリーズって全米1位のお姉さんたちに詞を書いたこともあったけど、銀河1位は無かったなと思ってさ(笑)。ぜひトライしてみたいと思った。

※2 フォールド
「マクロス」シリーズの共通用語。ワープの一種。



バジュラにすら愛される究極のラブソング

――

歌詞について少し聞かせていただけませんか。

松本

あんまり僕は自分の詞を説明しないんだけど、ちょっとだけ話すと……。まずバラードが来ると思ってたんだけど、菅野さんからはアップテンポな曲が来たんだ。バラードだったらさ、「瑠璃色の地球」みたいなイメージかなと思ったんだけど。

――

聖子さんの名曲ですね。でも来たのは、80年代アイドルをイメージさせる、明るいポップスですね。

松本

うん。これは「80年代アイドルだったら松本隆」みたいな、ネタかな?と思ったんだ(笑)。だからその裏をかきたいなと思ってさ。

――

高度な読み合いですね……。

松本

アップテンポな曲で何ができるか?ってことを考えて、最初にイメージしたのは、「銀河一のアイドル」だったら、単に1対1の男女の話じゃないだろうと。それだけじゃ済まないものを作りたいなと思ったんだ。たとえ相手が異星人であろうと、もしくはバジュラ(※3)にすら愛されるようじゃないとだめだろうと。

――

かつてないスケールのテーマですね。


  [水面が揺らぐ 風の輪が拡がる 触れ合った指先の 青い電流]

松本

出だしは、水面の静かなイメージから始まるんだ。「す」は50音の中でも最も弱い音のひとつだし、「水面」「ゆらぐ」っていうのもすごく微細なイメージだよね。水面に水が一滴落ちて広く拡散していく。次に出て来る「風の輪」っていうのは、自然界には普通、存在しないよね。つまりその裏には“爆発”が潜んでいるんだ。

――

なるほど。

松本

ここからだんだん強いイメージがフェードインしてくる。「風の輪“が”ひろ“が”る」で韻を踏んでいくと、綺麗に輪が広がっていくイメージになる。あと密かにさ、「水面」は『マクロス ゼロ』(※4)で、「風」は『マクロスプラス』(※5)へのオマージュなんだ。『マクロス ゼロ』は南の島と海が舞台の物語だし、『マクロスプラス』はオープニングで風車がでてくるでしょ?

――

確かに! そこまで考えてたんですね!

松本

それで、次の「触れ合った指先」っていうのは、システィーナ礼拝堂にあるミケランジェロの「天地創造」の天井画のイメージ。あの指と指は、神と人だよね。そして、「青い電流」っていうのは静電気なんだけど、自分と違う価値観と出会ったときに感じる痛みなんだ。

――

最初の2行だけでもそれだけの意味が込められてるんですね。

松本

歌の最後は、[魂に銀河 雪崩れてく]で終るんだけど、そこまでくると、溶解した宇宙が一人の人間に吸い込まれていくようなものすごいスケールになる。

――

最初の水面のゆらぎから、3分間で一気に究極のスケールまで大きくなるんですね。凄まじいダイナミズムですね。

松本

ものすごく微細な世界から銀河のような巨大な世界への拡がり 。これはまだ誰もやったことがないと思うんだ。仕掛けはそういう風になってる。……あとは、「ほうきにまたがった女の子」って可愛いでしょ(笑)。

――

(笑)。サビで出てきますね。


  [流星にまたがって あなたに急降下]

松本

それをやりたいなと思ってさ、ほうき星の代わりに流星にまたがるんだ。裏には色っぽさも出るしね。急降下、急上昇っていうのは、無重力に逆らったり近づいたりしているイメージで、そういうのはすべて恋愛にも繋がってくる。恋愛してる時って、体が逆さになる気分だったりするからさ(笑)。こうやって、詞全体でひとつの出会いを語っているんだ。男と女かもしれないし、ランカ・リーとバジュラでもいいし。

――

たとえ相手が怪獣でも。

松本

そう、相手はだれでも成立する。しかもラブソングなんだよね。それが「銀河一のアイドルのデビュー曲」への解答だね(笑)。

――

「星間飛行」で印象的なのが、サビの直前に入る「キラッ!」っていう叫びですよね。「星間飛行」を劇中でランカちゃんが歌う第12話では、「キラッ!」と叫ぶカットがすごく良かった。そのポーズがそのままCDのジャケットにもなってますけど、あれはどういう経緯で生まれたんでしょうか?

松本

最初に菅野さんから曲をもらったとき、サビの頭に音符が2個あったから、それに「キラッ」ってつけたんだ。メロディ的には[キラッ 流星にまたがって]とつながってた。ただその2個の音符がわりと低い音だったから、「音が潜っちゃうな」と思ってたんだ。レコーディングに行ったら、菅野さんも同じことを考えていたらしくて、突然あの部分を「キラッ!」って叫ぶように変えたんだ。

――

直前にああいう形になったんですね。

松本

そのとき僕は内心、苦笑してたんだ(笑)。マンガでいうと、こめかみに汗がたらり、みたいな。でもそういう意味では、菅野さんはアニメを熟知してると思った。

――

まさにそれがハマっていて、劇中では「キラッ」にあわせて星が飛んだりして、すごくいい演出になってましたね。第12話の、あのバルキリー(※6)に載って歌うシーン自体すごく良かった。

松本

うん。詞の意味をすごく理解して表現してくれてたと思う。風防が開いて、ランカが機体の中で立ち上がったときの不安定感みたいなのは、僕の詞にすごく合うと思った。僕は嬉しいよね。心の中で拍手!って感じ(笑)。

――

すごく良くて、何度も巻き戻してみちゃいました。

松本

実は、菅野さんに詞を渡す前に、タイトルを迷ってたんだ。「星間飛行」だけにするか、「星間飛行、キラッ」にしようかって。僕の中ではその語感のシリーズがあってさ、「赤道小町ドキッ」(山下久美子)と、「誘惑光線・クラッ」(早見優)っていう。

――

なるほど! もしそうなってたら三部作ですね。

松本

うん。昔ならそうしたと思うんだけど、今は時代が読めないからね、やりすぎかなと思って。結果的には、もしかしてそっちのほうが売れたかもとも思うんだけど、今回は歌の中だけにしておいたんだ。そういうのはいつも自分の中で迷ってるわけ。でも今回は、タイトルは「星間飛行」って重めにしたんだ。

※3 バジュラ
『マクロスFRONTIER』に登場する、(現時点では)謎の巨大生命体。

※4 『マクロス ゼロ』
「マクロス」シリーズのOVA作品。2002年〜2004年に全5巻が発売された。

※5 『マクロスプラス』
「マクロス」シリーズのOVA作品。1994年〜1995年に全4巻が発売された

※6 バルキリー
「マクロス」シリーズに登場する可変戦闘機。



時代が求める'80年代の色

松本

去年あたりから、「'80年代っぽいものを作って欲しい」って依頼が多いんだ。『マクロスFRONTIER』もそうだったし、ほぼ同時期に発売されたゴスペラーズの「ローレライ」(作曲:井上大輔 編曲:船山基紀 2008年7月6日発売)もそうだね。

――

あれは作曲の井上大輔さんの遺作だったんですね。

松本

作曲家の遺作って、僕にとってはすごく大事なものなんだ。10年くらい前、大村雅朗が亡くなったとき、彼が残したカセットテープに詞をつけて、聖子さんに歌ってもらった曲がある。

――

松田聖子さんの「櫻の園」(作曲:大村雅朗 編曲:石川鉄男  アルバム『永遠の少女』(1999年)収録)ですね。

松本

ゴスペラーズの「ローレライ」も、井上さんの遺作ってことだけで引き受けようと思った。アレンジは船山基紀さん。となると、'70年代〜'80年代のトリオになっちゃうよね。

――

鉄壁ですね。数々のヒットを生み出した3人が今、一緒に作るなんて。

松本

もう一つは……歌手は言えないんだけど、筒美京平さんと一緒に'80年代っぽい曲を作って欲しいって依頼があって。これはまだどうなるか分からないんだけど。とにかく、そういう仕事の依頼が連続してくると、時代がそういう要請をしてるのかなって気がする。分析するとさ、今の2000年代って時代って、色が無いんじゃないかって気がするんだ。だから、'80年代みたいな色の濃いものを欲しがってるんじゃないかと思う。

――

ネットで動画を見る人が増えた影響も大きいと思います。'80年代の圧倒的にクオリティの高い歌謡曲を目の当たりにして、需要が高まったんじゃないかと。

松本

いまでもたくさんヒット曲はあるんだけど、まずトータルの数字が読めないよね。いろんなチャートに分散しちゃっててさ。CDチャートとダウンロードチャートと……っていうふうに分化していて、それぞれが連続していて、分かりにくくなってる。そうすると、売れてるんだか売れてないんだか良くわからない。

――

'80年代はそれが非常にクリアな時代でしたね。チャートのトップになった曲が、「ザ・ベストテン」のようなテレビ番組などで日本中に流れて、それが時代の曲になる。世代を越えて誰しもが知っているヒット曲というのが成立していました。

松本

それは分かりやすかったよね。「星間飛行」のランキングを見ていても、5位くらいにいたと思ったら、急に11位くらいに落ちたりする。さらに上の順位の曲が消えちゃうと、また浮上したりね。'80年代はこういう動きってあまり無かったと思う。一度ベストテンに入ると、なかなか落ちなかった。ベストテンに入っても、じわじわ順位を上げたりしてね。

――

今の時代はどうして変わっちゃったんでしょう。

松本

マスが小さいから、そうなったんじゃないかと思うんだ。市場が小さいから、売り上げも安定しない。

――

確かにそれは言えますね。

松本

今、僕が売り上げにあまり興味が無くなっちゃった要因のひとつはさ、CDの市場が10分の1くらいに減っちゃった気がするからなんだ。もちろんその分、携帯のダウンロードなんかで補完してるのかもしれないけど、やっぱり分かりにくい。だから僕自身はそういう混乱した物差しで考えるよりも、去年やった日本語のオペラ(「隅田川」)みたいに、着実にこつこつと作ってるほうがいいんだ。ヒット曲には執着しなくなった。

――

なるほど。ただ「星間飛行」に関しては、'80年代効果なのか、ネットで見てると買ってる人の年齢層が意外に高い気がします。

松本

おじさんたちが盛り上がってる。

――

「松本隆はおっさんホイホイ」みたいな(笑)。

松本

けっこう偉くなったようなおじさんが、CDショップで「ランカ・リーください」っていうのって、絵的には面白い。そういえばネットで、「星間飛行」の最後の2行を評して、「松本隆の年齢にならないと書けない詞」みたいに書いてた人がいたよ。そう考えてくれる人が世の中にいるってことが僕にとって心強い。励みになるね。

 


マクロスFRONTIER http://www.macrossf.com/

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