「さらばシベリア鉄道」
作詞:松本隆
作曲:大瀧詠一
編曲:萩田光雄
発売:1980.11.21
『この迷路の向うには何があるの』
―データでみる松本隆:1―
執筆:風待茶房編集部
山口百恵さんの引退コンサートが行われた1980年。
この年に発売された松本隆作詞作品は85曲。
『さらばシベリア鉄道』は、太田裕美さんの19枚目のシングル曲であり、オリコン最高順位70位、2007年今現在、
太田裕美さんに提供した松本隆作品全100曲中の一曲である。
大瀧詠一氏との共作による太田裕美さんへの楽曲提供は今現在3曲存在し
(他2曲は『恋のハーフ・ムーン』(1981)、『ブルー・ベイビー・ブルー』(1981)。
『かくれんぼ』(1999はっぴいえんどのカバー)を除く。)
太田裕美さんへ提供した初めての共作曲がこの『さらばシベリア鉄道』である。
まるで冒険映画のオープニングのように壮大なスケールで始まるイントロに乗せて物語は疾走する。
特筆すべきは「雪に迷うトナカイの哀しい瞳」であろう。
松本作品には数々の動物が登場する。
トナカイは他にもクリスマスをテーマにした作品で描かれたことがあるが、
ここでのトナカイはシカ科で唯一雌雄共にかっこいい角を持つ、
「馴鹿」としてのトナカイであろうか。
『Tシャツに口紅』に登場する「不思議な瞳をしてみていた犬」とともに、
動物と瞳シリーズと呼んでみよう。
ところで世界一長い鉄道(全長:9297km)としても有名な「シベリア鉄道」は、
ウラジオストク〜モスクワ間の鉄道を総称して「シベリア鉄道」と呼ばれ、
今なお現役のアジアとヨーロッパを結ぶ重要な交通路の一つである。
以前から’シベリア’というキーワードがどこから生まれたものか気になっていたのだが、
ひとつ思い当たるとすれば、『さらば―』が発売された1980年夏に開催されたモスクワオリンピックであろうか。
冷戦の影響で日本は出場をボイコットしたとはいえ、当時関心の高い話題であっただろうと推測される。
ただの憶測かもしれない、ただ、松本作品には時代を反映したキーワードが数多く隠されていることがある。
それらのキーワードに出会う毎に百科事典を繰るのも茶房的鑑賞法の醍醐味である。
また、『さらば―』と同じ日の1980年11月21日に発売された松本作品に『ALASKA』(宮田あやこ 作曲:佐山博)
という曲があるということも、データとして並べてみるとなかなか興味深い。
前年の1979年、とある新聞のインタビューで松本は、
「作詞はSF小説を書くようなものかなぁ。いまは、迷路の問題を出すような感じだけど―」と答えている。
迷路の問題を解くように歌を聴くと過去や未来が車窓にみえる。
哀しみの裏側には、今、この迷路の向うには何があるのだろう。
先日、とあるミーティングの際、松本がふと呟いた。
「線路がなければ列車は走らない。」
とかく列車の性能ばかりを気にしがちであるが、
迷路に次々と現れる坂道や急カーブを越えてゆくと、
次の季節へと続く線路が遥か遠くの光のような焦点に、
結ばれてゆく気がする夏の終わりである。