• 第18回大会テーマ「ハートのイアリング」

『a.k.a HOLLAND ROSE』
執筆:佐野元春




 1984年。当時NHKFMで音楽番組を担当していた。サウンド・ストリート「元春レイディオ・ショー」。ある日、ひとりの少女から1枚のハガキがその番組に届いた。そのハガキには“HOLLAND ROSE(ホーランド・ローズ)の「キス・オン・マイ・リスト」をリクエストします”と書かれていた。

 ちょっと待って。「ホーランド・ローズ」?そんな歌手はいたかな? リクエスト曲は「キス・オン・マイ・リスト」。ダリル・ホール&ジョン・オーツのヒット曲。通称「ホール&オーツ」と呼ばれていた彼ら...。あぁ、わかった。「ホーランド・ローズ」=「ホール&オーツ」。リクエストしてくれた彼女は、多分、DJが流暢な英語で「ホール&オーツ」と紹介したのを「ホーランド・ローズ」と聞き違えたんだろう。

 それにしても何て素敵な聞き違えだろうと、思った。HOLLAND ROSE(ホーランド・ローズ)。オランダのバラ。魅力的な響きだ。ちょうどその頃、他のシンガーに曲を書くときに何か気の利いたa.k.aネームが欲しいと思っていた。この名前しか考えられなかった。 「ホーランド・ローズ」。これを自分のもうひとつの名前にした。

 そうして書いた曲が「ハートのイアリング」だった。番組に届いた1枚のリクエスト・ハガキから生まれたa.k.aネーム。あの時ハガキを送ってくれた彼女に今も感謝している。ありがとう。


執筆:佐野元春
1980年レコード・デビュー。80年代の日本音楽界に画期的な転換をもたらしたアーティスト。ソング・ライティング、歌唱スタ イルがその後のソングライターに大きな影響を与えた。 「サムデイ」、「ガラスのジェネレーション」、「約束の橋」など、ヒット多数。 活動は音楽だけにとどまらず、DJ、雑誌編集など多岐に及ぶ。広いジェネレーションに渡って文化的カリスマとして影響力が大きい。 2004年、独立新レーベル「DaisyMusic」を設立。現在、新作アルバム制作中。

アーティスト・ホームページ
「Moto's Web Server」 http://www.moto.co.jp/


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『冬の小さな冒険』
執筆:秀島史香



冬の朝、ツンと冷たい冬の匂いを感じると、NYで過ごした高校時代を思い出す。自意識だけはビンビンになり、小さな反骨精神が芽生えながらも、怒られるのはイヤだったガラスの十代。青春の血潮で「ウオー!!」と衝動的アクションを起こしては、小さいけど忘れられない恥ずかしい思い出を色々と作った。

当時、お洒落に目覚めた私は耳にピアスを開けたくてウズウズしていた。もちろん親は大反対。遠く親元を離れ、学生寮に入っていたので、「そんなの勝手に開けちゃえばいいじゃん!!」と思うが、ナンダカンダ言って踏み外せないタイプだった。けどやっぱり同級生達のお洒落なピアスは大人びて見えたし、耳たぶをクリップでとめる自分のイアリングが不恰好に思えた複雑なお年頃。

その思いは積もりに積もり、大雪が降ったある冬の朝、爆発した。大雪が珍しくないNYだが、試験期間中は特別な意味を持っていた。学校が臨時休校になるので、試験もキャンセルになるのだ。試験前夜、気持ちが切羽詰ってくると、それはもう全身全霊を込め「降れーっ!!積もれーっ!!」と祈ったものである。

その切実な祈りが天に届いたのか、本当にビックリするくらいの大雪が降った。休校のアナウンスを聞いた瞬間、いてもたってもいられなくなり、大雪の中を外へ飛び出した。向かったのは一番近いショッピングモール。にっちもさっちもいかない試験勉強から解放された反動か、眠気覚ましのコーヒーでハイになっていたのか…。

…その20分後。「バチン!!」という大きな音と共に、あっけなく私の耳たぶに穴が開いた。友達は全然痛くないと話していたけど、ビックリしたのもあって、涙が出た。それまでそっけなかった店員さんが驚いて「Are you okay?」と優しい言葉をかけてくれた。それが嬉しくて、また泣けた。

よく見ると、左右の位置が違い妙にバランスが悪い。それでも、嬉しくて嬉しくて、何度も鏡で確認してはウットリと悦に入った。その夜は試験勉強どころではない。小さな罪悪感に酔った。試験の結果?見事にボロボロだったが、そんなもの一生に一度しかない青春の思い出と引き換えだ。バランスが悪いと思った左右の穴も、すぐに見慣れ、当たり前のように自分の一部となった。

冬の小さな冒険から10余年。気が付けばすっかり大人になってしまったけど、今も突然の大雪に刺激され、突拍子もない行動を起こす自分はいるのかな?…いてほしいなぁ。


執筆:秀島史香(ラジオパーソナリティ・ナレーター)
J-WAVEをはじめ、TV/CMナレーションなど幅広く活躍中。声優として参加した映画『ユメ十夜』が現在公開中。
ブログ:http://www.fmbird.com/dj/fumika_hideshima.html


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『セイコ・スイート制作記』
執筆:堀越信哉



 思い出深い仕事のひとつに『SEIKO SUITE』という松田聖子デビュー20周年記念CD BOX('00年リリース)があります。ちょうど1999年に松本さんのCD BOX『風街図鑑』が発売になり、 その制作に参加させてもらったのがきっかけでした。「来年松田聖子の20周年に、BOXセットでベスト盤を出す計画がある」という情報をたまたまソニーのスタッフから聞き、頼まれても いないのに書き上げた企画書。「作曲家別に1枚1枚のCDを選曲する」というコンセプトを提案しました。

 このアイデアには実は元ネタともいうべき既発のベスト盤が存在します。ユーミン(呉田軽穂)の提供曲だけでコンパイルされた『SEIKO TRAIN』('85作品)というアルバム (もちろん全作詞/松本隆)です。「その手法を広げると、なんと“はっぴいえんど 編”聖子ベストも作れてしまうんです。大瀧さん、細野さんが提供したことは有名ですけど、実は鈴木茂さんも1曲だけ曲 を書いていて・・・詞は全部松本さんで計16曲!」なんてことを興奮気味にプレゼンし、晴れてその企画の監修をやらせてもらえることになったときの嬉しさは今でも忘れられません。

 全7枚組のCD中、DISC4の12曲目に「ハートのイアリング」は収録されています。作曲はHolland Rose(a.k.a.佐野元春)。――別れの予感が確信に変わる最後のデート。松田聖子の無邪気で透き通った声が"Stay with me"をリフレインするたびに、切なさが加速する名曲です。『SEIKO SUITE』では「ハートのイアリング」の次(M-13)に、同じくHolland Rose氏作曲の「今夜はソフィストケート」というミディアムナンバーが並びます。この曲が「ハートのイアリング」の続編になっていることを知っている方は、かなりの聖子マニアと言えます。いや、松本隆マニアと言ってもいいでしょう。"春になる頃あなたを忘れる"で締めくくられる「ハートのイアリング」を受けて、"忘れた頃に鳴り出したなつかしいベル"というフレーズで始まるその曲は、恐らく二年後の再会の物語であり、"昔軽く振られたお返し"ソングでもあります。興味のある方は、2曲とも『Windy Shadow』('84作品)と いうアルバムに収録されていますので是非聴いてみてください。このアルバムがまた、極上にポップな作品でありながら、全編歌詞がすごいことになっていて(しょこたんもショックを隠せない衝撃のナンバーはこちら)・・・って、どんどん脱線してしまいそうなので話を元に戻します。

 聖子さんの80年代の作品は、聴いていてとても心地よく爽やかなものが多いですが、関わったクリエーターのクレジットを眺めたり、アレンジや歌詞により注意深く耳を澄ますと、実に様々な相関図が垣間見られて唸らされます。(たとえば「ハートのイアリング」の編曲者/大村雅朗氏はデビュー時期の佐野元春を支えたクリエーターの一人でした。)シングル曲に限らず、アルバム、カップリング曲にまで及んだ豪華作家陣の起用や気鋭のミュージシャン達の協演、そしてそれらを縦糸のような役目で編み上げた、松本さんの美しく、物語性に富んだ詞(ことば)の軌道。日本のポップス史の中でも群を抜いてPOPな輝きを放つ松田聖子作品の、その質の高さをあらためて世に問いたい―――そんな使命感のような思いが『SEIKO SUITE』を作らせました。今でも貴重な僕のバイブルです。


執筆:堀越信哉(風待レコードA&Rマン)
風待レコード第二期の始動に向け準備を進める傍ら、新人シンガーソングライター/秦基博(ハタ・モトヒロ)のマネージメントを担当。10年勤続した会社も辞め再スタートな気分です。
http://www.office-augusta.com/hata/


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『ハートにイアリング』
執筆:batayam




 恋すると胸に落ちてくる一粒の真珠が硝子のような静けさと痛いくらいの熱を持つみたいに。


 映画『真珠の耳飾りの少女』のモデルになったフェルメールの絵画、『真珠の耳飾りの少女』(Girl with a pearl earring・1665頃・画面:左) 。水を打ったような静寂と、虫眼鏡で紙を焦がすように心を射る少女の視線。340年も昔に17世紀オランダでフェルメールが捉えた日常にあふれる温もりは、今も変わらない光の温度や人間の体温、そして心の熱を教えてくれる。

 2007年東京にて、季節の速度で伸びゆく窓辺の若葉をスケッチしたり、日常にあふれる温もりが眩しすぎて写真を撮るのが怖くなったりしながら、世界の構図に心揺らす日々。時に気のあう友人と互いの舟に乗りあうこともあるけれど、自分の暮らしはすこし孤独でどちらかというと地味なのかもしれないなぁと思っていた時、近代においてフェルメールを感じるVilhelm Hammershoi(1864-1916)が描いた絵(Interior With Young Man Reading. 1898・画面:右) に出逢った。絵の中の青年が持っている本の中からは詩が聴こえてくるような心の静寂。

 想うんだ。静かな暮らしに見えてくる、日々の構図に美しさがある。

 アフロ頭にピアスの穴を3つ空け、背中でギターを弾くパンクバンドを観に行っていた10代の頃は不安に感じていた中庸な日常の小さな光。ピアスの跡が微かに残るくらいに落ち着いた今は特に装飾品もせず、鉛の入ったブーツも履かず、生まれるときに持ってきた少しクセのある黒髪で心にイアリングを揺らしている。パンクロックよりも心強く、子猫のあくびよりも弱い音で風に揺れ、たまに見失うと泣きそうになる自分だけのハートのイアリングはエルフの創るランプのように夜の森でも光を集め足許を照らしてくれるんだ。

 日々の構図の美しさが、心に静かな熱を教えてくれる。恋すると胸に落ちてくる一粒の真珠が硝子のような静けさと痛いくらいの熱を持つみたいに。


執筆:batayam(ばたやん)
詩・文・絵・写真・デザインする人。/ 生きているから想うんだ、毎日に魔法をかけていこう。「先生、恋に王手がかけられません!」「ぶたやん、キミの涙の跡は世界地図みたいだよ。」真夜中の子供、ばたやんの宇宙への落書き。お寝しなにご賞味下さい。『毎日に魔法をかけていこう』 http://www.berry-records.com/


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『東大門市場、1:00am』
執筆:水島己



 ソウルと日本を行き来する生活が2年半になるが、一つ学んだのは、ソウルは夜遊ぶのが楽しいこと。日本から友達が出張なんかでくると、平日深夜集合、朝6時解散というパターンが多い。タクシーが安く深夜は時速120Kmくらいで走るので、飯→クラブ→カジノ→サウナ……という具合に、ソウルの街を縦横無尽に移動できる。

 東大門市場は平日の深夜でも活気にあふれていて、夜遊びの景気づけにはうってつけだ。1000軒くらいの小さなブースがぎゅうぎゅうに詰まったファッションビル群。カジュアル、フォーマル、靴、鞄。イアリングなどのアクセサリー類だけでもすごい数で、そうした巨大ビルがぼこぼこ建っているふもとに、びっしりと何百件もの屋台がひしめいている。モツ焼き、チジミ、のり巻き、トッポギなどの香りにクラクラする。

 先日、小雨が降ってきたので、友達と屋台でモツ焼きをつまみに焼酎をちびちびやっていた。雨が雪に変わるころ、屋台の外が騒がしいので出てみると、広場で飴売りのおじさんがポンチャック(チープなディスコ演歌)のリズムに合わせてパフォーマンスをはじめた。BPM130くらいのカシオトーンのリズムにメランコリックなコード。何を歌っているか分からないが、とにかくテンションは高い。広場を囲む40〜50代くらいの人だかりの中、夫婦づれの奥さんをつかまえては挑発するように超高速で腰をカクカク踊っている。

 おじさんのパフォーマンスに完全に心奪われたぼくらを尻目に、嫁を挑発された男衆は次々と広場に躍り出て、さらに熱く激しく踊りだす。雪の降るソウルの街で、突然にトライバルなパーティの幕が落とされた! まさに魂と魂の交流、畳み掛けるインプロヴィゼイションの応酬。延々と繰り返されるチープなビートにあわせ、叫びながら高速に踊り狂う数十人のおじさんたち。それをはやし立てるオーディエンス。熱く巨大な魂の火柱がうねりを成し、ソウルの中心をはげしく照らしていた。

ふと時計を見ると、午前1時。体は完全に暖まった。ソウルの夜はまだ始まったばかりだ。

執筆:水島己(風待茶房 編集)
エディター/ゲームデザイナー。あけましておめでとうございます! 今年も風待茶房をよろしくお願いいたします。水面下で準備している茶房発の特別企画、あります。お楽しみに。


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  • 第18回大会テーマ「ハートのイアリング」

「ハートのイアリング」
作詞:松本隆
作曲:HollandRose
編曲:大村雅朗
発売:1984.11.1


『ある、時代の破局』
執筆:まこりん


 「ハートのイアリング」は1984年11月1日発売の松田聖子のシングルだ。作詞はもちろんアイドル・松田聖子の隣にこの人ありの言葉の魔術師・松本隆、作曲は松田聖子作品に最初で最後の登板となったHolland Roseこと佐野元春、編曲はこれまた当時の松田聖子に欠かせない80年代屈指の音の建築家・大村雅朗が担当している。初登場1位を当然のように獲得して、売上は37.6万枚を記録している(オリコン調べ)。

 松本隆は「白いパラソル」以来、ここまで14作連続で松田聖子のシングルの詞作を担当し、すべての作品でチャート1位を獲得しているが、この曲を最後に、一時松田聖子への曲提供を中断している(――二人の再会は、86年のアルバム『SURPREME』)。この曲は、松本隆が綴った「松田聖子物語」の破綻を歌っているようにわたしには聞こえる。

 松田聖子は歌う――。

 「涙を糸で繋げば真珠の首飾り」(「白いパラソル」)

 「幾千粒の雨の矢たち 見上げながら潤んだ瞳はダイアモンド」(「瞳はダイアモンド」)

 それは嘘だ。涙は涙、ダイヤにも真珠にもならない。

 とはいえ、その嘘には思わず信じてしまいたくなる甘い魔法がかかっている。

 明朗で健全そうな表層の内側にある、思わず現実とすりかえてしまいたくなるほどに魅惑的な虚飾の美。それが松本隆の描いた松田聖子であり、80年代の時代の空気だった。

 この歌では、その虚飾が「ハートのイアリング」というガジェットに象徴されている。

 恋人の気をひくため、ちょっとばかりのスリルや愉しみを得るため、恋の駆け引きのひとつと軽い気持ちでつく嘘。しかしそれは破局への引き金となる。ほんのすこしの偽りが、いつしか最も大切なものすらも偽りに変えてしまった。

 松本隆は、松田聖子という当代一の歌姫をして80年代の空気を作りあげる一方で、その最後に80年代の敗退すらも予見し描いていた――といったら深読みかな。

 甘やかな偽りはやはり偽りしか生まない。虚栄の市はいつしか終わる。

 松田聖子の歌が輝いていた80年代、モノとカネが溢れかえる束の間のお祭り騒ぎの80年代は、この曲から遅れること6年、バブル崩壊という名で終わりを告げる。

 そしてこの架空の破局は、現実の松田聖子とも、リンクしてしまう。

 この曲の発売時、芸能マスコミは“いつ松田聖子と郷ひろみは結婚するか”という話題で沸騰、またふたりの関係者もそれを決して否定はしなかった。ところが一転、翌年1月、ふたりは破局。そして4月に松田聖子は神田正輝と婚約する。

 「春になる頃 あなたを忘れる」

 「ハートのイアリング」の詞は、結果、彼女の予言となってしまった。

 「松本先生は、魔法の鏡を持っていて、わたしを覗いているんじゃないかしら」

 そういっていた松田聖子。この曲に、彼女ははじめて、松本隆の持つ魔法の鏡を恨めしく感じたんじゃないかな。そんなミューズの残酷ないたずらを感じる一曲といえる。

 ちなみに。この「ハートのイアリング」と対になっている――返答といってもいい曲がひとつある。85年8月発売の郷ひろみのシングル「サファイア・ブルー」。作曲は井上陽水で、作詞はなんと松本隆(――!)。

 内容は聞いてのお楽しみ。ちょっとだけ解題すると、真冬の海に投げた指輪は、今は失われたかつての彼女の象徴、ってところかな。



執筆:まこりん(文章家 (――になりたいニート)
「好き勝手にweb上でふらふらと文章を書いていたら、いつのまにか風待茶房にたどり着いていました。人生万事塞翁が馬。
http://wagamamakorin.client.jp/


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