『秒速約30万キロメートルの瞬間』
執筆:batayam

写真を撮るとき、ふと、考えることがある。
地球が太陽の周りを公転する速度は、秒速約30万キロメートル(平均軌道速度 29.7859km/s )。そして、宇宙の真空中における光の速度もまた、秒速約30万キロメートル(299,792,458m/s)、いわゆる「1秒間に地球を7回半回る速さ」だということ。
アンリ・カルティエ=ブレッソンがパリを写した写真集『A Propos De Paris』を膝に乗せ屋根裏部屋でストーブの風を浴びながら波模様の湯気を描く紅茶と一緒にページをくくる時、朝陽に溶けてゆく氷柱からたちのぼる水蒸気のように髪の先からキラキラと眩暈がするのは体感していないはずの回転する地球の足音や(地球の自転速度は種子島宇宙センター付近で秒速約400メートルだという。は、はやい…。)
、鼓動より速いはずの光の軌跡を何十年も後に生きているボクたちに切りとってみせてくれているその写真家の指先がつかまえた光の姿が「秒速約30万キロメートルの瞬間」であることを心が感受しているからなのかもしれない。
街角の空き缶、ベランダに咲く母の花、梢にからまる青い風船、川面をゆく雲の白さ、屋根裏部屋に舞う埃、そしてみえないけど確かに存在し、自分の視線がつかまって「あぁ、
恋のブランコでいつまでも揺れていたいなぁ。」と想うほど愛しい毎日の情景は、幼い頃、家族で一度だけ行ったことがある遊園地のコーヒーカップに兄弟3人だけで乗ったとき、兄ふたりが気が狂ったようなスピードでカップを回し、目をつぶっても酔うほどのスピードに気を失いかけていたボクがみた、柵の外で叫びそうな心配顔でみつめる驚いた母の表情と同じくらい愛しい。
瞬間は点じゃなくて線になってぐるぐるまわるんだ。光みたいに。
コーヒーカップの話を母にすると「あなたの顔は蝋人形のように真っ白で柵の外で蒼くなったわよ。」と笑う母の笑顔もまた「秒速約30万キロメートルの瞬間」。眩しくて愛しい瞬間。
執筆:batayam(ばたやん)
詩・文・絵・写真・デザインする人。/ 生きているから想うんだ、毎日に魔法をかけていこう。「キミの視線でボクのハートは貫通さ。 」「雨の日でも朝はやってくるんだもん。」真夜中の子供、ばたやんの宇宙への落書き。お寝しなにご賞味下さい。『毎日に魔法をかけていこう』 http://www.berry-records.com/